このままでは日本は確実に負ける。ベンチャー・大企業・政府が一体となって宇宙ビジネスを加速させるために必要なこと ―グローバル・ブレイン 青木英剛(後編)

2019.03.19 エキスパート

日本初の宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE」。宇宙ベンチャーや大企業、政府関係者が集い、新たな連携が生まれています。その仕掛け人の一人が「宇宙エバンジェリスト」として活動する青木英剛氏。大企業へ宇宙ビジネスの価値を伝えながらベンチャー支援を続ける青木氏は、「日本の宇宙ビジネスは圧倒的に立ち遅れている」と警鐘を鳴らします。

前編では、最前線の技術者から、コンサルタントとして宇宙産業の新規事業支援、そしてベンチャーキャピタリストとして活躍されている青木さんのキャリアについて伺いました。

インタビュー後編では、これからの宇宙ビジネスの潮流である「4つのトレンド」と、日本が宇宙ビジネスにおいて勝ち残っていくために必要なことを伺いました。

前編 宇宙エバンジェリストが語る、「本物の宇宙ベンチャー」と「宇宙っぽいベンチャー」を見極める技術者の視点 はこちら

2117年には「火星コロニー」も。急成長する宇宙産業の背景にある2つのドライバーとは

―現在の宇宙ビジネスの概要について教えてください。青木さんは市場をどのようにとらえていますか?

市場規模としては世界全体で約40兆円ですが、そのうち日本は約1.2兆円。宇宙ビジネス先進国と言うにはまだまだ小さいですね。

世界の状況を見てみると、40兆円のうちの約7割は放送通信業界とGPS 関連産業(位置情報)が占めています。私たちが普段見ている衛星放送やカーナビなどがそうですね。この2つが現状では唯一完成し、定着している宇宙ビジネスの形だと言えるでしょう。その他は、ほとんどが各国の予算による宇宙開発(公共事業)です。これらは数十年前からあるものですが、私たちは他の分野に着目しています。

―市場は新たな方向へ拡大し、成長していくということですか?

はい。宇宙ビジネスの市場そのものは、ここ10年で約2倍にふくれあがっています。今後10-20年でさらに倍以上に伸びると期待しています。背景として、2つのドライブ要素があります。

1つは新興国。少し前までは11カ国しかロケットの打ち上げ技術を持っておらず、人工衛星を保有している国の数も世界の半分以下でした。それが今では新興国もどんどん宇宙に関わるようになってきています。

大きなくくりではアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、日本が宇宙大国と呼ばれていて、そこに中国とインドが加わりました。最近ではUAE(アラブ首長国連邦)なども積極的に動いています。私も何度かUAEを訪問し、皇太子殿下にもお会いしました。実際に日本のロケットを買ってもらっている国でもあるんですよ。UAEはずっと石油と天然ガスで食べてきた国ですが、今後のエネルギーシフトを見越して意思決定し、2020年には火星探査機を打ち上げるという計画を立てています。さらに2117年には火星にコロニーを作るという壮大な構想もあります。アニメの世界で描かれていたような「宇宙世紀」を現実に見据えているということです。

アフリカ各国でも人工衛星を持ち始めるようになりました。業界では頻繁にに「どこどこの国が初の衛星を打ち上げた」ということがニュースになっています。これらの人工衛星はODA(政府開発援助)で支援し、政府と企業がセットになって売りに行くスキームで提供されるケースが多いので、「BtoG(Government)」のビジネスといえるでしょう。日本でもJAXAや内閣府、経済産業省が密に関わって宇宙インフラ技術をパッケージ展開しようとしています。

―他の経済分野と同様に、宇宙ビジネスでも新興国が猛烈な勢いで成長しているのですね。

はい。そしてもう1つのドライブ要素が「NewSpace」と呼ばれる異業種からの新規参入です。これに対して、従来の宇宙ビジネスは「OldSpace」や「TraditionalSpace」と呼ばれています。

NewSpaceの代表例は2000年台初頭に生まれたスペースXでしょう。その後、世界中で1000社を超えるNewSpace企業が誕生しています。今から10年後には1万社を超えるのではないでしょうか。直近数年は第3次宇宙ブームと呼ばれ、どんどんお金も入ってきている状況です。このブームの行く末を見渡すために理解しておくべきなのが「4つのトレンド」です。

 

「宇宙インターネット」から「惑星移住」まで。今後の宇宙産業を見極めるために理解するべき「4つのトレンド」とは

―盛り上がっているように見える宇宙産業。現在の宇宙ブームの中で起きている「4つのトレンド」について、詳しく教えてください。

4つのトレンドとは「宇宙インターネット」「宇宙ビッグデータ」「宇宙旅行」そして「惑星探査・移住」です。順を追ってご説明します。

まず、いちばん伸びているのは大量に打ち上げられている人工衛星の数です。人工衛星にできることというのは、シンプルに言うと「聞いて、見て、話す」だけなのですが、アンテナを載せて聞いた内容を生で伝えたり、カメラでとらえた画像を伝えたり、GPSを積んで位置を教えてくれたりと、さまざまな形で活用されています。

これまでの放送通信や地球観測、気象観測などに加えて、人工衛星を活用した新たなビジネスとして盛り上がっているのが「宇宙インターネット」です。例えばアフリカ大陸中に携帯電話の通信網を張り巡らすのには莫大な予算がかかりますが、宇宙経由であればより手軽にできると判断している企業や投資家がいます。日本企業でもソフトバンクなどが投資していますね。

また、人工衛星から観測することで、国境をまたいで様々な経済活動の状況や競合企業の動きを見ることも可能になります。そうした「宇宙ビッグデータ」を活用することも注目されています。既にこのサービスを提供する企業が増えてエコシステムが生まれつつあり、派生産業としてソフトウェアやアプリを作る企業もどんどん増えています。

―ビジネスに活用する目的での宇宙利用がすでに進んでいるのですね。

はい。一方で中長期的な話題としては、BtoC領域でのトレンドも押さえておく必要があります。「宇宙旅行」は宇宙関連で数少ないBtoC領域のビジネスといえます。海外ではヴァージン・グループのヴァージン・ギャラクティックが有名ですが、日本にも有人宇宙船の開発を進めているベンチャー企業があります。

もう一つのトレンド「惑星探査・移住」の可能性にも注目しておくべきですね。日本でも「アメリカとともに月へ人間を送る」という計画が発表されました。各国政府やベンチャーが現在、こぞって目指している領域でもあります。新しい国を作ろうとする壮大な事業なので、不動産やゼネコン、インフラ関連も動くでしょう。民間企業の動きが加速していけば、もはや流れは止まらなくなると思います。イーロン・マスクは「あと5〜6年で火星に人を送る」と言っていますが、2020年代には本当に、人が火星を訪れているかもしれません。

大企業の参画や政府の支援、かつてのブームとは異なる環境にある宇宙産業

―日本の宇宙ベンチャーを取り巻く状況についても教えてください。

私も創業メンバー兼理事を務める「SPACETIDE」という非営利法人では、日本初となる「宇宙ビジネスカンファレンス」を開催しています。ベンチャーや大企業、政府関係者を集めて行っているのですが、これまでは宇宙とまったく接点のなかった大企業が宇宙ベンチャーと組む動きも顕著になってきました。

一つのベンチャーが10社以上の大企業と手を組んでいるというケースもあります。本気でシナジーを狙っている大企業もあれば、リサーチ段階だったりPR目的だったりする大企業もありますが、メリットの大きな宇宙ビジネスを「やらない理由はない」という考え方になってきました。

かつて、すべての企業がITを導入して新たな事業や組織を作ってきました。同様に宇宙も、あくまでもツールであり手段。AIと同じで、ツールとしてどう活用し新産業を生み出すのかが問われています。今後はすべての企業が何らかの形で宇宙ビジネスを導入していくことになるでしょう。今ではスマホはもちろん、電車もGPSが壊れると動かなくなってしまいます。私たちの生活はすでに、宇宙なくしてあり得ないんです。

―大企業の参画だけでなく、政府による支援の動きが活発化していることもベンチャーの背中を押してくれそうですね。

ここ2〜3年で宇宙政策は劇的に変わりましたね。「宇宙政策委員会」でも、宇宙ビジネスに関して政府として議論し、提案しようという動きがあります。補助金だけでなく、企業が作った製品やサービスを政府が買う「アンカーテナンシー」と呼ばれる制度も検討されています。これは米国ではあたり前に行われており、産業振興の起爆剤になっているので、日本でもいち早く本格導入して欲しいところです。政府が最初のお客さんになってくれるので、ベンチャーキャピタルが投資しやすくなるわけです。いわゆるリスクマネーの供給についても、民間でできないところは政府系ファンドが乗り出していくでしょう。

2000年代前半までの第2次宇宙ベンチャーブームでは、立ち上がった企業がほとんど潰れてしまいました。世界的な大富豪が立ち上げた事業しか成功しなかった。今は大企業や経団連、政府も支援しているので、かつてとはまったく違う環境にあると言えます。

「国民一人ひとりが宇宙ビジネスで生まれたサービスを享受できる」社会を

―世界で戦う際に、日本の宇宙ベンチャーはどんな強みを発揮できるのでしょうか?

小型化や低コスト化は、どの産業でも日本が得意とするところです。宇宙ビジネスにおいてもこの強みが発揮されるでしょう。一方で日本にはGAFAのようなネットジャイアントがおらず、ソフトウェアが弱い。このままでは自動車産業で懸念されているような、ものづくりの下請け業者で終わってしまう可能性もあります。

宇宙ビジネスにおいて、日本は圧倒的に立ち遅れているんです。世界には1000社を超える宇宙ベンチャーがありますが、日本には30社程度しかありません。大手発の宇宙ベンチャーが生まれたり、JAXA発ベンチャーが生まれたり、大学卒業後はすぐに宇宙ベンチャーを立ち上げたり……。そんな動きが起こるよう支援していく必要があります。

―日本の宇宙ビジネスと宇宙ベンチャーが成長していくために、具体的な課題は何でしょうか?

まずは宇宙ビジネスが村社会になっている状況を変えていくべきです。そうしなければ人・モノ・金の流動性が高まりません。大企業にいる技術者も、もっと飛び出していいはずです。

日本の宇宙機器産業の規模は約2,000〜3,000億円ですが、これはつまりJAXAの予算。しかも20年間まったく変わっていないんです。放送通信や宇宙利用など入れると、約1.2兆円の規模がありますが、それでも世界的に見ると小さい。一方、環境問題や少子化問題など喫緊の課題が他にもある中で、宇宙予算だけを増やすことは難しいでしょう。民間のお金を宇宙産業にどんどん入れてレバレッジをきかせ、全体のお財布を充実させていくことも重要です。

このまま行くと、日本は確実に負けます。スペースXのような企業はこれからもどんどん出てきます。国内の企業同士で争いをしている場合ではありません。

私の個人的な取り組みも、まだまだ始まったばかりです。今は大企業に宇宙ビジネスの可能性も伝えながらベンチャー支援をしていますが、最終的には「国民一人ひとりが宇宙ビジネスで生まれたサービスを享受できる」ことが当たり前になる社会を作りたいと考えています。宇宙エバンジェリストとして活動する人材が大企業に1人ずつでもいれば、日本の宇宙ビジネスは加速していくでしょう。そのために仲間を作る活動も積極的に進めているところです。

インタビュー:川口荘史

記事作成:多田慎介

撮影:Masanori Naruse

 

プロフィール

青木 英剛:グローバル・ブレイン株式会社 パートナー/宇宙エバンジェリスト。米オーバーン大学大学院で修士号(航空宇宙工学)を取得後、三菱電機に入社。三菱電機では日本初の宇宙船「こうのとり」の開発等に従事し、多くの賞を受賞。慶應ビジネススクール(MBA)修了後に、ドリームインキュベータ(DI)に参画。DIでは、大手企業に対する宇宙ビジネスコンサルティングや技術系スタートアップのインキュベーション等に従事。2015年からグローバル・ブレインにて、宇宙やロボティクス領域を中心とした技術系スタートアップへの投資・成長支援に従事。また、「宇宙エバンジェリスト」として宇宙ビジネスの啓発、民間主導の宇宙産業創出に貢献。一般社団法人SPACETIDE共同創業者兼理事。内閣府宇宙政策委員会宇宙産業振興小委員会委員を始め、JAXAや政府委員会の委員等を多数歴任。