【サブスクリプション】サブスク市場進出企業に蔓延する「サブスクはニュービジネス」の誤解 兵庫県立大学国際商経学部教授 川上昌直

2020.08.20 エキスパート

企業の間でも熱い視線を浴びているのがサブスクリプションです。一般には「サブスク」と呼ばれ、様々な業界の企業がサブスク市場へと進出。2018年は「サブスク元年」と言われるほどの「サブスク進出ラッシュ」の様相も見せました。

そこで今回は、サブスクをはじめとする「継続収益(リカーリング)モデル」を初めて体系化し、『「つながり」の創りかた――新時代の収益化戦略理カーリングモデル』(東洋経済新報社刊)を上梓された兵庫県立大学の川上昌直教授に、企業がサブスク市場へ進出する際の問題点、成功するために必要な要件などをお伺いしました。

 

サブスクはビジネスモデルではなく収益を得る仕組み

―― サブスク市場は、ネットフリックスを始めとするデジタル商材を提供する「デジタルサービス系」と衣料品等の実物商材を提供する「モノサービス系」に大別できる訳ですが、モノサービス系の市場は今後5年間拡大し続けるのでしょうか。

川上教授(以下、川上) ː残念ながらデジタルほど拡大しないと思います。

今は「サブスクブーム」みたいな勢いもあって、モノサービス系も一見活況を呈しているように見えますが、このままでは拡大より縮小の可能性の方が高いと私は見ています。

その理由は後ほどご説明したいと思いますが、その前にサブスクというビジネスの本来の姿を簡単にご説明したいと思います。

サブスクは商材に対してではなく、商材を「契約期間中利用する権利」に対して課金することで収益を得る「収益モデル」であって、ビジネスモデルではありません。ですから、利用の満足度が高ければ契約期間が長くなり収益が上がりますが、満足度が低ければすぐに契約を解約され、収益を得られない仕組みになっています。

サブスクが日本で注目されたのは、2012年4月にアドビシステムズ社が発表したAdobe Creative Cloudがきっかけです。

それまで箱入りのCD-ROMパッケージで売切り販売していたAdobe Creative Suiteを、月額5000円の会員制で年間使い放題にしたのです。しかも、契約期間中はバージョンアップする度に最新のソフトを使える特典付きです。

Adobe Creative Suiteは当時、確か30万円程度で販売されていたと思うのですが、仮にこれを月額5000円の分割払いで購入すれば単純計算で5年間使わないと元が取れない計算です。しかしAdobe Creative Cloudの会員になれば、月額5000円で使え、しかも2、3年置きに発売されるバージョンアップソフトも買い替えなくてすみます。「それなら他のデザインソフトを使っていたら損。アドビの会員になるのが断然得」とのユーザー心理が働き、デザイン関係者の間で同社のサブスクがあっという間に広がったのです。

そして、日本でサブスクが爆発したきっかけが、ネットフリックスが2015年から日本でも開始した会員制の動画配信サービスです。なにしろ数万タイトルのオリジナル作品を含む映画、ドキュメンタリー、アニメーションなどの動画を月額800円(ベーシックプランの場合)で見放題なのですから、「これほど得なサービスはない」と、映画ファンの間に爆発的に広がりました。

―― それが刺激になって、モノサービス系サブスクが大量に生まれました。

川上 こちらはデジタルサービス系のようにそれほど拡大しないと私が見ているのは、モノサービス系の場合は変動費がかかるからです。つまり、モノの場合は実物の移転の問題があります。

例えば、ブランドバッグのサブスクを展開している場合、人気ブランドのバッグは特定の借り手ユーザーにずっと占有されていて、ビジネスモデルの「貸します・借ります」の商材流通性を失っています。借り手ユーザーを増やすためには、人気ブランドバックの貸し手ユーザーを探さなくてはなりません。しかも借り手ユーザーの場合は「このままずっと占有しているなら、利用権料を払うより買った方が得」との心理が働き、契約を解約してしまいます。結局、収益源の借り手ユーザーを思うように拡大できないのです。

したがって、ラグジュアリー品を商材にしているモノサービス系企業の場合は、ラグジュアリー品の貸し手ユーザーそのものが少ない訳ですから、必要な在庫の確保自体が困難な状況です。貸し手を募るための広告宣伝投資が先行して、収益が一向に上がらない収益モデルになっています。

既存ビジネスの課金モデルを買えただけではサブスク成功しない

―― それにもかかわらず、モノサービス系のサブスク市場進出が活発なのはなぜでしょうか。

川上 それは「所有から利用へ」の消費傾向が背景にあるからです。この消費傾向は2008年のリーマンショック以降の不景気が原因と言えます。

―― 収入が増えない。だから欲しいものを自由に買えない。だったら買うのは諦めて使いたい時だけ借りて使おうとの発想転換(シェアリングエコノミー指向)ですね。

川上 おっしゃる通りです。

シェアリングエコノミーが、リーマンショック以降10年の不景気を経て、「所有から利用へ」への消費傾向を生み出し、それがスマートフォンのアプリダウンロードに代表されるデジタルサービスとクロスオーバーする形で具現化されたのが、今のサブスクと言えるでしょう。

しかしいくら「所有から利用へ」と言っても、誰かが所有していなければだれも利用できません。

モノサービス系企業の場合、サブスクを展開するためには一定の在庫を所有しなければなりません。売切りをできない在庫はBS(貸借対照表)上の不良在庫、すなわち棚卸資産になるので、財務体質悪化要因になります。

サブスクの課金で収益は確かに上がりますが、その上がり方が薄くて長い(薄利の長期化)ので、ユーザー数が増え収益が棚卸資産額を凌駕しない限り、不良在庫の帳消しができません。

このBS上の負担に耐えられなくなって、サブスク市場から撤退したモノサービス系企業がすでに2桁のレベルで出ています。

―― 課金モデルだけを変えただけでは、サブスクは成功しない訳ですね。

川上 10年ほど前、日本でもフリーミアム(標準サービスを無料で提供し、付加価値サービスや強化版サービスを割増価格で提供するWeb業界の収益モデル)が流行しました。

この課金モデルを飲食業界へ導入した大手居酒屋チェーンが何社かありました。その結果、例えば焼酎を無料にしてホッケを2000円にするとかの、訳の分からないメニュー構成になって客離れを引き起こしてしまいました。

焼酎を無料にしても、その分を料理代で回収できると目論んだ訳ですが、来店客は期待するほど料理を注文してくれないので無料分の回収ができず、しかも客単価も落ちてしまいましたね。

―― モノサービス系の場合は、モノであるが故の制約が多いので成功は難しいと言うことでしょうか。

川上 要因はそれだけではありません。サブスクは会員制型の収益モデルです。ですから、会員特典がないとユーザーはすぐに退会します。

ところが現在のモノサービス系の大半は会員特典がないか、そのレベルが低いサービスです。都度で購入できるモノを繰り返し購入させているだけが実態ですので、強制的にリピーターを作っているようなものです。これでは会員になったユーザーが不満を持つのは当然でしょう。

デジタルサービス系のサブスクが成長しているのは、ユーザーが「会員になった」との実感を得られるからです。

例えばネットフリックスの場合、会員にならなければ視聴できない動画が山のようにあって、しかも自分の好きな動画をリコメンドで提案してくれます。同社のリコメンドのアルゴリズムはアマゾンのおススメ商品リコメンドより遥かに精度が高く、提案に対するユーザー満足度が高いのも同社ユーザーが拡大し続けている要因になっています。

ですから「会員特典とは何か」を、モノ系サービス企業はもっと真剣に追求する必要があります。

 

モノサービス系が成功するためには価値提案能力が不可欠

―― モノサービス系企業がサブスク市場で成功するためには何が重要でしょうか。

川上 原価が安い、あるいは粗利が高い商材なら成功しやすいと思います。

ただ、粗利が高い商材の場合は売切りの方が当然収益率は高いので、「これをサブスク商材にして良いのか」の迷いが先に立つでしょうね。

そこで、商材的には生活必需品。ターゲット的にはモノの共有にこだわりがない人・コスト意識が強い人など対象にしたサブスクが成功しやすいと思います。

ユニ・チャームが展開しているおむつのサブスクが伸びているのは、特定のユーザーにとってそれは生活必需品であり、かつ提供される商材が一流ブランド品だからです。ターゲットユーザーにとっては欲しい商材であり、都度購買するより「会員制価格の方が割安」の会員特典が明確ですから。

―― 粗利が高い商材と言うとやはり高級品になると思うのですが、これがサブスクで成功する可能性はあるのでしょうか。

川上 条件次第だと思います。

一般消費者をターゲットにした商品で粗利が高い商材はいくらでもあります。例えばアパレル、化粧品、宝飾品、インテリア、家具などです。

この中で高級家具なんか、「所有は無理だけど使いたい」のニーズは強いと思います。ですから工夫次第ではサブスクとして成功する確率は高いと思います。

では、なぜサブスク市場で高級品アイテムが少ないのかと言うと、日本企業は概して価値提案が下手だからです。買う以上に、利用料を払って続ける意味が見当たらないからです。

価値提案とは、サブスク企業が提供する商材を利用したユーザーが、どれだけ生活レベルを向上させられるのか、どれだけ生活の利便性が増すのかの提案に他なりません。

この提案を論理的・客観的・実証的にできない企業が、収益モデルだけサブスク的なものにしても、そもそも成功する訳がないのです。高級品のサブスクにおいては、何よりも価値提案と収益モデルのリンクが重要です。

 

量より質。企業とユーザーの繋がりの強さが収益性を増大させる

―― その意味で、何か参考になりそうな事例はあるでしょうか。

川上 例えば、東京・町田で営業している地域家電店の「でんかのヤマグチ(株式会社ヤマグチ)」ですね。現状サブスクではないですし、するつもりもないですが、同社はいつサブスクへ移行しても成功間違いなしの価値提案能力を持っています。

町田駅前にはヤマダ電機、ヨドバシカメラ、ビックカメラと大手家電量販店3店が進出しています。この大手家電量販店包囲網の中で、社員数僅か45名のヤマグチは年商10憶円台・粗利4割台の業績を毎期コンスタントに上げているのです。

なぜこんな高収益をコンスタントに上げられるのかと言うと、いわゆる「定価販売」しかしないからです。それでも同社顧客が家電量販店へ逃げることはないのです。

その理由が家電量販店が足元にも及ばない価値提案力の高さなのです。そして同社の価値提案力を支えている仕組みが、同社独自の会員制システム「ヤマグチの安心会員」です。

同社は町田市と相模原市南区を商圏にしているのですが、商圏内の世帯数は約32万8000世帯もあります。対して同社の会員数は約5000名。1世帯=同社会員1名と仮定して、わずか1.5%しかカバーしているに過ぎません。

この会員数、すなわち固定客数で年商10億円台・粗利4割台を実現している物凄さに注目していただきたいのです。

―― 商圏の会員カバー率を考えると、確かに物凄いですね。

川上 これを支えているのが同社のビジネスモデルと会員制システムにあります。

同社はパナソニック系列の地域家電店なのですが、同社は家電製品の販売・修理に止まらずシステムキッチン・システムバス等の住宅設備機器販売・据付工事・メンテナンス、住宅リフォームと、言ってみれば「住まいの悩みに関する解決総合センター」的な業態を採っているのです。

―― 住まいの悩みに関するワンストップサービスですね。

川上 そうです。

ですから同社の会員になると、アフターサービス部分に関してはパナソニック以外の他社製品全部を対象にしているのです。

例えば、国内外を問わず全メーカーの家電製品・住宅設備機器修理、同社で購買した家電製品・住宅設備機器は即日配達・据付(午後4時受付分まで)などをやっています。この他、同社会員には高齢者が多いこともあって風呂釜掃除、電球交換、エアコンフィルターの取替えなども電話が掛かってくれば1年365日即日対応です。

この会員サービスを行うため、同社には家電製品エンジニア、第一種電気工事士、石油機器技術管理士、ガス溶接技能者、スマートマスターなどの資格を持った社員がいます。

同社の山口勉社長に聞くと、このサービスに止まらず会員から「今日、急に検査入院することになって家を留守にしなければならない。用心ため留守中泊まってくれないか」との依頼電話が掛かってくると、その会員担当社員が留守中泊まると言うのです。また、怪我をして飼い犬を散歩させられないから散歩させてくれと頼まれると散歩させると言った具合で、至れり尽くせりです。正に「痒いところに手が届くサービス」を行っているのです。

ですから同社と会員の繋がり、すなわち同社に対する信頼感と満足感が非常に強い。浮気をする会員が少ない所以です。

―― 会員になる条件は何なのですか。

川上 特にないようです。強いて言えば同社で家電製品を購入したお客さんが会員対象です。入会金・年会費ゼロです。会員になってこんな至れり尽くせりのサービスをされたら、定価販売でも家電製品や住宅設備機器の購入・買替は同社でしかしないでしょう。

現在は1店舗だけの単店経営ですが、かつては6店舗までチェーン展開したそうです。しかし、会員全員に十分な「安心サービス」を提供できなくなったので、現在の単店経営へ戻しました。

同社の会員制システムは、モノの売切り型ビジネスでは絶妙です。会員制システムはユーザーの繋がりの強さで成功の成否を分けるサブスクの肝なので、会員制システムのレベルが低い企業はサブスクで成功しません。ですから、少なくともモノサービス系のサブスク市場進出を検討している企業は、同社の会員制システムを研究し、参考にすると良いと思います。その上でサブスク市場に進出すれば成功確率が高まるでしょう。

 

世代が異なるとモノの価値観が異なる時代

―― これまでの川上先生のお話で、モノサービス系企業がサブスク市場で成功するためには商材の独自性とそれを知ってもらうための価値提案、サブスク企業とユーザーの繋がりを強固なものにするハイタッチな会員制システムの両輪が揃う必要があることが分かりました。この他に留意すべきことは何でしょうか。

川上 それはやはりユーザーのセグメンテーションに尽きます。

サブスクの概念として必ず持ち出される「所有から利用へ」の消費傾向ですが、最近はこの消費傾向が細分化しています。

端的な例では「ミレニアル世代(1980―1990年代前半生まれ)と「Z世代(1990年代後半―2000年代初頭生まれ)とでは、消費傾向が明らかに異なります。ですからサブスク市場の背景である消費傾向も、「所有から利用へ」の形容詞で十把一絡げに捉えると事業戦略を誤る可能性があります。サブスク事業においてはターゲット世代の厳密なセグメーションにも留意する必要があると思います。

―― 2つの世代は具体的にどのように異なるのですか。

川上 ミレニアル世代はバブル景気崩壊後の平成不況期に生まれ、就職氷河期を経験した世代なので、モノの消費に対する欲望は低いと言われています。それでモノの所有には執着せず、他人とモノを共有するシェアリングサービスを何の抵抗感もなく受け入れるのが彼らの特徴です。

そのせいか、ラグジュアリー物よりも日常使いができる商品を好む消費傾向が強いのも彼らの特徴です。ですから日常使いができるモノなら、サブスクも積極的に利用するでしょう。

Z世代はもっとシビアで、幸福で悩みのない生活をイメージさせる「ドリーム商品」には無関心で、リアル感のある生活をイメージさせる商品に関心が強いのが彼らの特徴です。そのせいか、社会通念上のブランドに対してはほとんど興味を示さず、自分にとって本当に役に立つブランドやユニークな商品に反応します。

また、自主性と目的意識が強いのも彼らの特徴で、モノに対しては自分なりのこだわりを持っています。

ですから、格安スマホを使っている一方で、高級ブランドの数万円もするスニーカーを履いていたりします。つまり、こだわりを持っているモノは高くても所有する。それ以外は安物で良いとの割り切りが極めて明確なのです。

私のゼミの学生が言っていたことですが、モノを買う時は「メルカリでいくらで売り抜けるかを調べてから買うか買わないかを決める」と言うのです。そう言う意味でZ世代はモノの価値を見分ける目を持っていると言えるでしょう。

このように、消費傾向が細分化している時代に、単なる収益モデルとして営業しているサブスク事業者は辛いと思います。

これはモノサービス系もデジタルサービス系も共通して言えることですが、ハイタッチな会員制システムと明確な会員特典、商材の独自性がないサブスクは、話題性などで仮に一時的に業績が上がっても、長続きしないと思います。

 

 

記事作成ː福井 晋

 

<参照資料>

  • サブスクリプションとは何ですか?/家電小ネタ帳

https://www.nojima.co.jp/support/koneta/11406/

  • 国内のサブスク市場規模とこれからの動向/定期通販ノウハウ講座

https://precs.jp/blog/?p=9668

  • サブスクリプションサービス市場に関する調査を実施/矢野経済研究所

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2114

  • サブスクリプションとは?/ferret

https://ferret-plus.com/11982

  • サブスクリプションビジネスを成功させるためにはマネタイズより「つながりを」を重視しよう/ITmediaマーケティング

https://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1904/01/news057.html

  • ”水の定期宅配”が意外に長続きしないワケ/プレジデントオンライン

https://president.jp/articles/-/29123

  • 「つながり」なきサブスクリプションは失敗する/東洋経済オンライン

https://toyokeizai.net/articles/-/287831

  • 安易なサブスクが急にブームになったワケ/ライブドアニュース

https://news.livedoor.com/article/detail/16653694 

 

川上昌直

兵庫県立大学国際商経学部教授