【ウェアラブルデバイス】現場のモチベーションをかき立てるデバイスでなければ浸透しない。企業に必要な現場への落とし込みとサービス設計 廣澤篤 アクセンチュア株式会社

2020.03.24 エキスパート

人の体や衣服に装着してデータを収集・処理する「ウェアラブルデバイス」の実用化が急速に進んでいます。
スマートウォッチなどコンシューマー向けデバイスだけでなく、エンプロイー向けデバイスの需要も高まりを見せる中、アクセンチュア株式会社は企業と連携した実証実験や共同開発を実施しています。

さまざまな形態のデバイス開発がなされる中、現場への浸透において課題となる点、今後の可能性などについて、ウェアラブルデバイスを使ったサービス設計の支援を行うアクセンチュア株式会社の廣澤篤氏に伺いました。

 

腕時計型が主流の中で、イヤホン型やシール型デバイスにも見込みあり

 

― アクセンチュアはコンサルティング企業というイメージが強いですが、ウェアラブルデバイスをどのように扱っていますか?

エンプロイー向けで、実際の現場にウェアラブルデバイスを導入する実証実験をやっています。
ヘルメットにつけるカメラ、メガネ型ディスプレイ、心拍を測るための腕時計型デバイスなど、ウェアラブルの形態はさまざまです。

具体的には、石油会社様の精油所・油槽所や、アパレル企業様の店舗、コンビニエンスストアなどで実際に導入してみて、使い物になるのかを検証しています。

― スマートウォッチの普及により、現在日本でウェアラブルデバイスというと、手首につける腕時計型がまず想起されると思います。それ以外のウェアラブルデバイスで、実用性を考えて見込みがあるのはどんな形態でしょうか。

比較的見込みが高いのは「イヤホン型」でしょう。以前からインカムとして使われてきた形なので、馴染みがあるということがひとつの理由です。イヤホンの端末から心拍情報を取ることができますし、耳を塞がなくても音を伝えられる「骨伝導」や「指向性スピーカ」という方法もあります。総称して、「ヒアラブル(hearable)デバイス」とも呼びますが、これらは今後見込みが高いでしょう。

ディスプレイタイプは長時間身につけるにはどうしても重く、消費電力が大きいという課題もあるので、作業現場などに組み込むとなるとまだ難しいのかなと。海外では軽いタイプのディスプレイが建設現場で使われる事例がありますが。

― 体に直接つけるシールのようなものや、埋め込み式のデバイスも検討されていると思いますが、これらについては。

貼り付けるものであれば問題ないと思います。赤ちゃんの体温を測るデバイスなど、既に出回っているものもありますね。
一方で、埋め込み式デバイスは、心理的な抵抗も大きいので、相当先になるのではないかと感じています。例えば、ペットの犬や猫にチップを入れることを想像するだけでも、抵抗がある人は多いのではないでしょうか。

現場の方々に、「つけたい」と思ってもらえるデバイスであるか?

 

― 5年、10年というスパンの中で、ウェアラブルデバイスが使われるようになるためのドライバーは何になると思いますか。

それはもう、ユーザーの「身に着けたい」という気持ちでしかないと思いますね。
当たり前の話ですが、会社につけろと言われても、それが何らかの形で自分のプラスにならなければ活用されませんから。

― それは、実証実験を通して感じられたことなのでしょうか。

そうですね。油槽所の例で言うと、基本的には皆さん、使いたくないと思っていらっしゃいます。こういった現場では「防爆対応」が必須です。機械が故障して発火、爆発してしまったら大事故ですから、警戒意識が非常に高いのです。そこで私たちは、管轄の消防署ともやり取りをする必要があります。

実証実験では、安全性とデータ収集の確実性を担保するために、デバイスだけでなく、ガス検知器とスマホを持ってもらうことになりました。加えて、現場の方々は普段からトランシーバーを持っている。それらすべてが入るように、ポケットのあるベストを着てもらったのですが、実証実験は夏場に行ったので、当然暑いですよね。

企業としては、夏場なら熱中症、冬場だったらヒートショックなど、現場の方々に異常がないかチェックしておきたい。そのため、管理監督者は特に心拍データを吸い上げたい。

ですが、現場で働く人はたいてい「自分は大丈夫」と思っているわけで、わざわざウェアラブルデバイスを使いたいなんて思わない。持ち物が増えて煩わしいだけと感じてしまうことも多いです。

― それを受けて、例えば軽量化したり、ヘルメットに内蔵したりなど、試していくのでしょうか。

弊社としてのお客様は現場の方々。現場で検証して実際の声をもらいたいと思っているメーカーと現場の間に入ってマッチングできるという点がコンサルの強みだと思います。

会話の文脈を適切にとらえ接客をサポートするAIを搭載したデバイスでの実証実験

 

― 反対に、ウェアラブルデバイスが歓迎される例にはどのようなものがありますか?

日本航空様のケースは、うまい使い方ができたと思います。空港のカウンタースタッフは、搭乗者のパスポートを確認したり、お席のご案内をしたり、荷物を預かったり、短い時間の間にたくさんのやりとりをしますよね。

その中で、お客様と会話をしながら、例えばいろいろな国と地域に対応するために何種類もある機内持ち込み禁止物リストの中からお見せするべきリストをタブレットに表示させるなどの作業を同時に行っています。

実証実験では、スタッフさんにいつものマイクの他にもう1つ専用マイクをつけてもらい、スタッフさんが発する言葉をAIが認識、適切なご案内情報をタブレット画面に表示しました。スタッフさんがその都度検索しなくても、自動的に出てくるというわけです。

― 会話の文脈をとらえて必要な情報と紐付けて表示するのは、簡単なことではないと思いますが。

おっしゃる通りで、1つのキーワードでも、文脈によっては違う情報を出さなければならない場面があります。
活用したのは弊社が開発した複数のAIエンジンから最適なエンジンを組み合わせる「AI HUBプラットフォーム」ですが、複数のAIエンジン間でデータを蓄積するため、そのデータを活用して学習を繰り返すことで精度を上げることがでるのです。

ポイントは、お客様のプライバシーを守るため、スタッフ側の声のみを取るということです。
ただ、お客様の名前など必要な情報を復唱することが通常のオペレーションに組み込まれていたので、接客の方法を変えることなく導入することができました。現場の方々は、「お客様により質の高いご案内ができるのなら」と、喜んで受け入れてくださいました。

この日本航空様のケースで学んだのが、「モチベーションの重要性」です。社内での報告会など、他の会社様ですと弊社で担当するようなことも、日本航空様は自分たちでされていました。

― すごく自分事になって、ウェアラブルデバイスを使った未来をしっかり考えられているということですね。一概に接客業だから使えるということではなく、企業の姿勢や思いというところとかみ合うかどうか。

世の中が「DXだDXだ」と言っているから使ってみるというスタンスでは、なかなか効果は出ませんよね。
なぜデジタルテクノロジーを使うのかをしっかり定義できていることが大切です。

セキュリティレベルは、サービス全体として設計する必要がある

 

― ウェアラブルデバイスの特徴は、データを集めるところですが、個人情報保護法を筆頭に、法規制に抵触する可能性もあります。そのあたりは、どういった意識を持つとよいのでしょうか。

規制は守らざるを得ないですよね。日本国内、または特定の場所で適切に使えるものなのかを確認する作業は必須です。電波法に引っかかることもあるでしょうし、先ほ油槽所のように、消防法に関わるところも特殊ではありますが出てきます。

考えておくとすれば、セキュリティレベルではないでしょうか。
どの程度セキュアな機材にしていくのか。セキュリティレベルが上がるほど、ハードウェアとしてのコストもかかりますし、データの取り扱いにおいてもコストがかかります。

ですが、生体情報などをとっていくことも増えるので、コストがかかりすぎるからと言って、安易にセキュリティを緩めてはいけません。サービス全体としての設計を考えて、どれだけのセキュリティを担保すべきかは、検討が必要です。

― ウェアラブルデバイスについての知識を身につけていくうえで、参考になる調査レポートや本などはありますか。

本は制作に時間がかかり、出版されるときには多少情報が古くなっているので、とっかかりはインターネットメディアに出ているニュースやトピックがいいでしょう。弊社では毎年、「テクノロジービジョン」として注目のトレンドを掲げています。

2020年はポスト・デジタル時代のトレンドとして、「体験の中の『私』」、「AIと私」、「スマート・シングスのジレンマ」、「解き放たれるロボット」、「イノベーションのDNA」の5つを4月に公開予定です。

こういうキーワードをとっかかりにして、気になるキーワードがあれば、深掘りするために専門書を読んでいく、というステップがいいと思います。

 

プロフィール

廣澤篤

アクセンチュア株式会社 ビジネス コンサルティング本部 プリンシパル・ディレクター

2004年にアクセンチュア入社。ハイテク・通信業、製造業を中心に、中長期IT戦略・IT資産評価・IT運用業務評価のコンサルティングに従事。次世代サービスデザイン、PoC(実証実験)企画・実行・評価・展開・運用保守計画、サービス展開の支援を行う。

拠点紹介:アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京

アクセンチュアが展開する機能のうち、「イノベーション・センター」、「ベンチャー」、「ラボ」、「スタジオ」の4つを結集させた拠点施設。

お客様のイノベーションをあらゆる側面から支えるため、各分野の専門家が集まっており、必要なソリューションに最適な機能とタレントを組み合わせ、構想から実現までをお客様と共同で進めることができる。

デザインシンキングからプロトタイプ化、テスト、本番化まで、ステップを全て完結させられるため、圧倒的なスピードで戦略やサービスの市場投入が可能。ここでは、幅広い分野のパートナーやお客様と共同で創作したソリューションの展示や、デモを見ることができる。