【海外進出:物流】海外の生産拠点設立やフランチャイズ展開など。経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)の活用の可能性

2017.11.20 海外市場

新興国市場への進出や生産拠点の設立、物流拠点としての活用など、海外との取引が増加しています。そうした中、国の間での取引の円滑化、物やサービスの流通を自由に行うために、活用した方がいい制度があります。

貿易や投資の自由化が進む中で有用な経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)。経産省なども活用を後押ししているものの、意外と知られていないこうした制度の活用による海外の物流におけるメリットや、活用が進んでいない理由など、海外物流の専門家鈴江氏にお伺いしました。

海外進出において便利なFTA・EPA活用

グローバル化が進展している中、国内市場の縮小を懸念して、アジアを中心とする新興国での市場進出を考える企業も増加しています。その中で、海外との取引を円滑化させるFTA・EPAの拡大が世界の潮流となっています。世界では450以上のEPA/FTAが既に存在しています。しかしながら、これらの活用は十分とは言えず、より活用が拡大すれば、海外市場進出なども増えていくとみられています。

ヤマトグローバルロジスティクスジャパンにて大手自動車メーカーのベンダーの海外の新⼯場における⽣産物流など扱っていた鈴江氏からみると、これらの制度の活用については企業側に明確なメリットがありながら、意外と利用されていないという印象をもっているといいます。

 

経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)とは

まず、EPA、FTAとは何でしょうか。

FTA:特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定
EPA:貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定

出典:外務省

「EPA」(経済連携協定)は、特定の国や地域同士での貿易や投資を促進するため、以下の内容を約束する条約です。

EPAに含まれる約束の例

①「輸出入にかかる関税」を撤廃・削減する。
②「サービス業を行う際の規制」を緩和・撤廃する。
③「投資環境の整備」を行う。
④ビジネス環境の整備を協議する

出典:経産省

経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)とは、2以上の国(又は地域)の間で、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の要素(物品及びサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、例えば人の移動や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定をいいます。

出典:財務省

 

関税の撤廃・削減を定めるFTA(自由貿易協定)や、関税だけでなく知的財産の保護や投資ルールの整備なども含めたEPA(経済連携協定)がそれです。日本は、シンガポールとのEPAが初めてでした(2002年)が、世界では450以上のFTA・EPAが既に存在しています。

ちなみに、日本のEPA・FTAの現状(2017年7月現在)は次のようなものです。

・発効済・署名済 16
シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP(署名済)
・大枠合意/実質合意 2
日EU・EPA(大枠合意)、日ASEAN・EPAの投資サービス交渉(実質合意)
・交渉中 4
(交渉完了・未署名含む)コロンビア(交渉中)、日中韓(交渉中)、RCEP(交渉中)、 トルコ(交渉中)

出典:外務省

太平洋を囲む12か国が参加する「TPP」(Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ)も話題になりました。今回は、FTA・EPAの利用の現状についてみていきましょう。

 

 経済産業省も民間企業のFTA・EPA利用を推進

当然ではありますが、こうしたFTA・EPA利用については、経済産業省も活用を後押ししています。それでも、まだまだ国内企業において活用が広がっていない、事業会社でもこうした制度の理解が進んでいません。

また、制度の理解に加えて、導入にかかる手間の多さや軌道に乗るまで時間がかかるといった点が導入を阻害しているようです。これらの制度を活用することで得られる、関税がなくなったり削減されるというメリットはキャッシュインパクトとしても非常に大きいにも関わらず、十分活用されていないという非常に「もったいない」状況といえます。

Q:経済産業省もこれらのFTA・EPA利用について推進していますね。

鈴江敬寿氏(以下、鈴江):そうですね。経産省でもその専門部隊を組成していますが、そのこと自体も企業の活用が進んでいないことを示しているともいえます。セミナーも積極的に開催されており、参加企業をみても海外物流を提供している企業が非常に多く、その他事業会社の参加はまだまだ少ない印象を受けます。

 

Q:活用することでのメリットは大きい。しかし、まだ活用は進んでいないのですね。

鈴江:理由の一つとして、導入にかかる企業の担当者の手間の大きさ、何をすればいいのかの不明確さがあります。例えば、ある大手企業でもきちんと軌道に乗るまで3年ぐらいかかっています。実は、原産性の証明のところで非常に時間がかかります。HSコードとの照合をしないといけない、価格構成比を明確にしなくてはいけない、調達先のベンダーとも話し合わないといけない等の手間が想像以上にあります。

 

Q:現状ではどの国との取引でよく活用されているのでしょうか?

鈴江:現状はタイとの取引での可能性が一番あるのではないでしょうか。タイ、ベトナム、インドネシアなど、以前からFTAは結んでいましたが、日本の企業がこれまでこうしたFTAの恩恵を受けるような動きをしていませんでした。

 

「メリットがあるのはわかっているのに活用の仕方がわからない」企業におけるFTA・EPA活用の現状

FTA、EPA活用については、企業サイドとしては当然メリットがあるのはわかるのですが、活用方法がわからない、そして、物流会社でも十分に理解できていない、むしろその手間を嫌がっているという事もあるようです。これは、日本からの輸出では、輸入する買い手側にとって関税が安くなるようなメリットとなるため、結果として取引上はメリットがあるのですが、直接的なメリットを得られることになる買い手のために日本サイドが動かないということもあるようです。そのため、グループ会社間の取引でまずは導入が進むとみられています。

Q:こうした日本の企業のFTA活用については、どうして導入が進んでいないとお考えでしょうか?

鈴江:その他、物流会社に委託していたのに、それを物流会社が理解しておらず、手間も嫌って生かし切れていないこともあります。自動車会社の部品メーカーでやってみたところ非常に効果がでたことがありましたが、企業サイドとしてもメリットがあるのはわかっているのに活用の仕方がわからない、というのが現状です。

日本としては現地で輸入する際の関税が安くなるという形なので、買い手のために日本が動くというのは考えにくいため動かない。そのため、動きやすいのは、グループ企業の現地法人に対しての取引、グループ間での物流コストであれば、そのまま安くなるメリットを感じやすいということですね。

 

Q:受け入れる海外企業のために、日本側で動いて原産証明をしていく必要があるということですね

鈴江:そうですね。日本側で動いてもらう必要がありますが、その構造のために難しさがありますね。現地企業としては明確なメリットがあるので、活用したいと強く思っている、そして日本側に依頼して、特定原産証明書の取得のために動いてもらうといった連携の取り方になると思います。そのことから物流とのセットで進められると考えています。先ほど述べた通り、現地の子会社とのグループ間の物流についてはと特に動きやすい傾向にあると思います。それでも進んでいないのが現状です。

 

今後については、日米FTAの展開も注視

明確なメリットがあるものなので、今後は活用は増えていくとみられる、FTA、EPA。今後は、日米のFTAについても注視しつつ、日本でも活用事例が増えていくと思われます。

一方で、産地証明書のエビデンスなどのテクニカルな難しさも導入の阻害要因となっていますが、これらは、物流会社でも十分な知識がなかったり、事業会社でも購買部員が片手間にするにはかなりの負担になるため、こうした専門知識を有する外部の知見者をコンサルタントとして活用していくことも考えられます。ただ、こうした知見を持っている専門家も多くはいないようです。

Q:今後については、活用機会など増えていくとみてよいでしょうか? 

鈴江:将来的にはアメリカがどのようなスタンスをとるかも含めて可能性は広がっていくので、このあたりの活用は重要になっていくと思います。米国とのTPPは白紙に戻りましたが、日米のFTAについてはペンス副大統領が改めて大きな関心を示した発言も報道されています。日米FTAの展開も今後どうなるかによっても大きく影響を受けると思います。

さらに、米国でのFTAが進むとその影響でメキシコなども加盟をしていくので影響を受けるでしょう。

 

Q:国内企業の現状の活用については増加傾向にあるといえるのでしょうか?

鈴江:今ちょうど活用する会社が増えてはいます。ただ、依然として上場企業でも利用の仕方が分かっていないことが多い。日本では原産地証明書(商工会議所)のエビデンスなども必要になり、これをどうやって取得したらいいのかわからないというテクニカルなところなどお手伝いするようなケースも増えています。

調達や海外セクション、購買部において担当者が片手間でやっているのではやはり難しいですね。専門的な知識がないと前に進められないという点があります。

 

プロフィール

鈴江敬寿:海外物流、生産物流のエキスパート。ヤマトグローバルロジスティクスジャパンで 27 年半あまり、武蔵貿易通関で1年あまり海外物流に従事。ヤマトグローバルロジスティクジャパンにおいては、雑貨などの輸出⼊である販売物流はもとより⽣産物流や調達物流においては⾃社の国内外のインフラや倉庫、システムを活⽤した⼀元管理の提案していき、マーケットの分析、交渉までの過程で⼀つのサプライチェーンマネージメントにより実績を上げる。