【海外進出:物流】現地の原産性の証明など制度活用における手続きがハードルに。経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)の活用(後編)

2017.11.26 海外市場

グローバル化が進展している中、国内市場の縮小を懸念し、アジアを中心とする新興国での市場進出を考える企業も増加しています。EPA/FTAの拡大が世界の潮流となっていますが、世界では450以上のEPA/FTAが既に存在しています。しかしながら、これらの活用は十分とは言えません。活用が拡大すれば、海外市場進出なども増えていくとみられています。

前回では、経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)とはそして、これらEPA/FTA活用の現状について述べました。

前回はこちらから

今回は、実際の利用の事例や、何が活用の課題になっているかについて、海外物流の専門家鈴江氏にお伺いしました。 

 

EPA/FTA実際の利用シーンは、受動的利用がほとんど

明確な物流コストの削減効果が表れるFTA利用ですが、実際にどの程度活用されているのでしょうか。

実は活用しているのは多くが一定の規模以上の会社であり、かつ能動的に活用するというよりは、取引先からの要請を受けて受動的に利用に至ることが多いようです。

Q:EPA/FTA利用のきっかけ、どういったタイミングで利用が始まるのでしょうか?

鈴江:EPA/FTA利用のきっかけは、大半は取引先(輸入者、輸出者、国内納品先など)からの要請によるものだと思います。つまり、受動的な利用がほとんどで、能動的な活用はあまりないというのが実情です。

海外での市場拡大やサプライチェーン効率化を目的に主体的に利用に至ることもありますが、こうした事例はそれほど多くない印象です。利用しているのも一定以上の規模の会社が多いですね。多くは大企業、中堅以上の企業といえます。

 

Q:メリットがあるにもかかわらず、EPA/FTA利用が多くないのは、もったない気がします。

鈴江:そうですね。活用のメリットが認知されていないのかもしれません。

FTA/EPAを利用した効果としては、以下のような点があげられます。

・顧客(輸入者など)満足の増進が図れた。
・輸入関税分(CIFベース)の経費が節減(コストダウン)でき、日本からの輸出品の価格競争力を強化することができた。(関税減免効果)
・サプライチェーンの効率化を図ることができた。

顧客満足の観点では、関税のコストダウンによって、それらの価格転嫁によりエンドユーザーも喜ぶはずです。

また、コストダウンは、特に値段の張るもので効果的です。品目によって効果が異なりますが、HSコードによって何%安くなるかということが分かります。

このようなメリットがあるにもかかわらず、利用は受動的な場合が多く、当たり前に利用されているわけでもないことが意外です。

※HSコードとは、国際貿易商品の名称及び分類を世界的に統一するために作られたコード番号。貿易上、それが何であるのか世界各国で共通して理解できるよう取り決めたもの。タリフコード、品目コード、輸出入統計品目番号、関税番号ともいわれる。商品・商材に対して、世界共通でわりふられている番号で、関税を決めるために欠かせないもので、この番号ごとに関税率が決められている。

 

最近のFTA/EPAの活用事例について

十分ではないものの、最近では利用は広がりつつあるFTA活用。どのような業種や品目が多いのでしょうか。

Q:FTA活用は広がりつつありますが、海外物流の専門家として、これまで実際にどのような業種について手掛けられたことがありますか?

鈴江:最近では中小企業でも利用が広がりつつあります。私の手掛けている範囲だと、製造業が中心で、例を挙げると、自動車の部品メーカー、金型など。製造業での生産拠点への輸送など、こうしたところで活用すると大きなメリットが得られます。もちろん業種は自動車メーカーなどに限られません。

Q:その他、どういった業種の会社の利用、どういった品目が多いのですか?

鈴江:輸出品目は工業品(素材:金属、繊維、化学品など、生産設備:機械・器具など)から一般消費財(食品・飲料、化粧品、文房具など)まで多岐に及びます。例えば、地方特産の製品や商品を輸出する際でもFTA/EPAを利用するケースが見られます。一般消費財なども入っているケースもありますね。

農産物などでは、野菜を輸出している場合もあります。今後日本の農産物の輸出などでも活用されていく可能性があります。

Q:その他、例えば製造業の製造拠点への部品の輸送などの他、活用するシーンはどのような場合があるでしょうか?

鈴江:近年のサービス産業の海外展開、例えば飲食店のフランチャイズ拡大などに伴い、日本の食材をFTA/EPAを通じて海外店舗に供給する事例もみられますね。

Q:FTA活用によるコストメリットについて、簡単に実際の事例を教えてください。

鈴江:例えば、自動車の金型などをみてみましょう。タイに出荷するために10%関税がかかるような事例で、20億円ぐらいのインボイス価格であれば、それだけで単純に2億円の関税がかかるわけです。これについてもFTAを活用することによりフリーになります。つまり、2億円の物流コストの削減ということになります。

 

制度活用における手続きがハードルに。現地の原産性の証明など

活用をすることでメリットが大きいEPA/FTAですが、活用の障壁として手続きの難しさがあります。専門的な知識も必要になります。例えば原産地証明書ですが、その手続きについて十分な知識のある人は多くはないといいます。そして、物流会社などもこの手続きへのサポートはそれほどしていないようです。

※原産地証明書とは、対象となっている物品が、特定の国や地域で生産、製造、または加工されたことを証明する書類。その物品の輸入申告時に、輸入関税について、FTA等で一般よりも低い関税を課すために用いられる。発行者としては、輸出国の税関、商工会議所、輸出組合・関連団体、輸出国の輸入国領事館、物品の製造業者、輸出者自身等となる。

Q:制度活用の手続きにおいて必要な専門的な知識とはどういったものでしょうか。

鈴江:いろんなルールがありますが、手続きにおいて原産地証明書の取得が必要になります。この対応は、その手間などを考えると、物流会社で海外の貿易の担当の出身でその手続きを熟知している人材でないと難しいでしょう。物流会社がそのようなサービスを提案すれば一番いいと思っていますが、そうしたサービスは現状は軌道に乗れていないようです。

物流会社も、手続きが面倒なため、お客様にその手続きを依頼し、輸送のみを手伝うというスタンスです。そのため手続きまでは支援をほとんどしていないというのが現状だと思います。

Q:現地生産証明が難しいとのことですが、どういった知見があればそれらをクリアできるのでしょうか?

鈴江:現地の原産性の証明ですが、HSコードの照合は物流会社で通関を経験している人であればなじみがあり、調べ方に精通しています。

HSコードを照合する専門のデータベースがあり、そこで調べて、自分で部品と製品のHSコードの照合をして資料でまとめ、それらを説明できるような形にする必要があります。ただ、照合をしたいのだが、ベンダーに何を聞いたらいいのわからない。材質を聞くのか、部品名、用途を聞くのか、といったことがおきます。例えば、金型と言っても射出成型と鋳型でも異なります。実際にやってみないとこの難しさは伝わりませんが、海外物流でいつも扱っていたグローバルなロジスティクス企業にいた方であれば、慣れています。

これを社内の人材が通常業務の片手間でやろうとすると、かなりの手間になり非効率です。であれば知っている人を使えばよい。物流コストとしては明確にメリットがでるので、その成果も見えやすく、成功報酬も含めてそういう人たちをコンサルタントとして活用していくことも一つの手だと思っています。

Q:専門的な知識が必要になるとのことですね。そうしたFTAの専門家はどこにいるのでしょうか。

鈴江:専門的なテーマは専門家に委ねるのが得策で、その方が効率的です。

そのためにもEPA/FTAと企業との関係を熟知した専門家の確保する必要がありますが、FTAの専門家というのはそれほどいません。物流の海外部門にいても、物流会社でもほとんどいない、つまりコンサルタントを探しても見つからない領域ですね。商社であれば知見があるかというと、実は商社もそれほど知らないと思います。そもそも商社でもFTA活用されているかというとそうでもないようです。メーカー側でもあまりそういう人はいないと思います。調達とかでもいない。海外取引をやっていても、日本の物流費の節約はするのですが、海外の関税のコストダウンに着目している人は少ない印象を受けます。

ただ、その中でもおそらく知識を持っている人としては、物流会社の経験者になるとは思います。先ほど少し述べたように、海外物流でこうしたHSコードなどをいつも扱っていたグローバルロジスティクス企業や部門にいた方であれば、慣れています。

 

FTA/EPAの利用拡大における課題とは、そして失敗事例について

FTA/EPAの活用の課題は、既に述べたように、手続きの煩雑さにあるようです。失敗事例を含めて伺いました。原産地証明書が取得できなかったり、担当者依存的な知見となっておりその担当者の退職に伴いノウハウが失われてしまったケースや、原産地証明書を取得しても輸入国で否認されることもあるそうです。

Q:利用上の課題はどういったものがあるでしょうか?

鈴江:以下の3点かもしれません。
・製品(商品)の原産性立証の手間(不慣れ)
・原産地証明書の取得の手間と費用
・関税減免税効果は輸入者が一方的に享受

最後の点ですが、FTAはやはり輸入者が利益を受けるものなので、輸出する側としてあまり意識しないことが多い。ただ結局グループ会社間だとコストダウンにもなりますし、最終的な価格転嫁となることも考えると、輸出側も意識して対応していく方が双方のメリットになると思います。先ほど述べましたが、顧客や取引先からFTA、EPAを使って輸出をしてほしいといわれてようやく活用が始まるような事も多い。

 

Q:FTA/EPAの失敗事例はどういったものがあるでしょうか?
鈴江:
例えば、日本からの輸出では、原産地証明書が取得できなかった実例があります。
輸出者が生産者に丸投げをしたが、協力を得られなかったケース。ブランド保持者がOEM先に作業を押し付け、OEM先がFTA/EPAを理解できず、原産地証明書の取得に至らなかったケースなどです。

一度は原産地証明書を取得したという実績はあるが、担当者が退社をしてしまい、当時のノウハウが社内において共有されていなかった為に継続してFTA/EPAを利用できなかったというケースもあります。このように原産地証明は意外と手間になってしまうのと、一方で会社としてもあまりFTA活用を重視していないので担当者依存的になってしまうことも多いようです。

Q:失敗事例について、ほかにはどういったケースがありますか?
鈴江:
他には原産地証明書を取得したが、輸入国で否認された実例もあります。
原産地証明書に記載されているHSコードに対して、輸入国で不適切と判断されたケースなど。この対策としては、税関による「事前教示」制度を活用するなど、輸入者の方から輸入実績としてHSコードの確認が必要になります。

 

FTA/EPAを企業戦略に取り込むというトップの意思表示も重要

FTA/EPAの活用は、コストメリットとなるだけではなく、国際ビジネス評価のバロメーターにもなります。これからはこうした制度活用も企業戦略に取り込んでいくこととなると思われますが、そのためにはトップとしても担当部門への権限移譲や協力企業への関係構築といった対応が必要です。

Q:これからはこうしたFTA/EPAといった仕組みを当たり前に活用していくのが国際ビジネスへの適応として当たり前になっていきますね。

鈴江:これからの国際ビジネス環境に向けた企業の進化として、FTA/EPA活用はその企業の国際ビジネス評価のバロメーターにもなると思っています。
輸入者にとっては、FTA/EPAを利用する輸出者はコンプライス遵守の企業との評価が得られます。そして、FTA/EPAを利用しない企業は海外との取引チャンスを逸する可能が出てきます。

Q:なるほどですね。そうなると、きちんとFTA/EPAを企業戦略に取り組むというトップの意思表示も重要ですね。

鈴江:トップの対応として以下のようなことが求められると思います。

  • 主となる部門(担当者)への権限委譲と予算配分
  • 自社だけでは全てを完結できない現実を認識し、協力企業へのFTA時代における関係再構築

 

Q:これからはFTA/EPAや国際貿易についても、企業戦略の中できちんと対応を考えていく必要がありますね。

鈴江:米国の利用によるインパクトはあると思います。重層的に増加するFTA/EPAに最適な組み合わせを詳細に検討する必要があり、こうした専門性の高い分野の情報収集・分析には同分野の専門家を活用すべき局面は増えていくと思います。

 

 

プロフィール

鈴江敬寿:海外物流、生産物流のエキスパート。ヤマトグローバルロジスティクスジャパンで 27 年半あまり、武蔵貿易通関で1年あまり海外物流に従事。ヤマトグローバルロジスティクジャパンにおいては、雑貨などの輸出⼊である販売物流はもとより⽣産物流や調達物流においては⾃社の国内外のインフラや倉庫、システムを活⽤した⼀元管理の提案していき、マーケットの分析、交渉までの過程で⼀つのサプライチェーンマネージメントにより実績を上げる。