【海外M&A:東南アジア】新興国に多い「プロセス屋」。新興国M&Aで見極めるべき現地アドバイザーの力量

2017.10.03 海外市場

M&Aで見極めるべき現地アドバイザーの力量

東南アジアでのM&A戦略についての連載第2回目。

前回の記事では、新興国におけるM&Aを行いやすい国はどこか、またそれをどのように見分けるのかをテーマに、東南アジアを中心にM&Aアドバイザーをしている株式会社アジア戦略アドバイザリーの杉田氏から、新興国のM&Aのやりやすさを決める主要6項目のうち「制度面の整備状況」、「会社情報の信用度」について伺いました。

今回は、「現地アドバイザーの力量」について伺っていきます。

前回の記事はこちら

 

東南アジアにおけるM&A案件。不動産関連のM&Aも活発化

東南アジアにおける合併・買収(M&A)案件は、近年ではタイやベトナムでも不動産関連のM&Aも活発化しています。

例えば、タイでは、コンドミニアム開発のオリジン・プロパティーが2017年5月に同業のプラウド・グループ傘下の住宅開発子会社プラウド・レジデンスの全株式を40億バーツ(約130億円)で買収すると発表しています。

また、ベトナムでは、南部や中南部で不動産開発案件の買収が活発化しており、2017年2月設立のサニーアイランド投資社が、ホーチミン市ニャーベー郡フオックキエンの大型住宅開発案件(約93ヘクタール)をクオッククオン・ザーライ(QCG)から買収する計画を進めているといいます。

<参考記事>

「不動産オリジン、プラウドレジデンス買収」

「不動産開発の買収、南部で活発化」

 

現地アドバイザーに求められる、「案件確度を高める上で重要な4つのポイント」

 

M&Aアドバイザリーにおいて、比較的規模が大きい案件や、大企業やそのグループ会社などコンプライアンス意識が高い企業同士の場合、通常買い手側と売り手側に別々のアドバイザーが就きます。より安く投資をしたい買い手側と、より高い価格に誘導したい売り手側で利益が相反するため、どちら側につくかで提供するアドバイスの内容が全く逆になってくるためです。

 

Q:杉田さんは、日系企業に買い手側のアドバイザーとして就くことが多いと思います。その場合は、現地企業の売り手側のアドバイザーと相対して案件を進めていくことになりますね。案件を進めていく中で、相手側のアドバイザーの力量のうち、どのような点で案件に影響が出てくる印象でしょうか?

杉田:当然ながら、売り手側のアドバイザーの力量により、案件の成功の可否は大きく異なってきます。

これまでの新興国でのM&Aの経験を通じて、売り手側のアドバイザーには、次の4点が求められると考えています。

 

「現地の売り手側アドバイザーに求められる4つのポイント」

(A)案件のソーシング

(B)案件情報の正確な把握と提供

(C)売り手側の企業の案件への誘導

(D)案件全体の状況のハンドリング

 

次に、これらの「現地の売り手側アドバイザーに求められる4つのポイント」についてみていきましょう。

 

「ブローカー」に要注意。現地の売り手側アドバイザーに求められる信頼性

売り手側のアドバイザーは、彼らにとって「商品」ともいえる現地企業の出資ニーズや売却ニーズを踏まえた案件を確保しています。そして、M&Aの売り手側アドバイザーは、事業や企業を売却しようとする企業の意思決定をサポートしていく必要があります。その価値の最大化や売却後の体制など、アドバイザーとしてつく売り手側が何を望んでいるのか、その要望や意思に基づいて案件を設計し、交渉し、導いていくことが求められます。

 

Q:売却の案件を持ち込んでくるような売り手側アドバイザーですが、売り手側企業との関係性を含めて、案件を確保していく経路なども重要ですね

杉田:これは新興国のみならず、どこの国も同じですが、売り手側のアドバイザーに就くためには、現地企業のトップマネジメントと強固な関係を築いていく必要があります。売却を依頼する企業からすれば、会社の方向を決定する重要なプロセスを委ねることになるため、アドバイザーにはそうした案件を執行していく上で力量が求められます。

 

Q:売り案件において、売り手側アドバイザーと現地企業の経営陣と関係性が築けていることが重要ですね。

杉田:現地の金融機関やアドバイザリー会社が、しっかりとした関係構築の上で持ってくる案件ばかりであれば問題ありません。しかし、実際のところ新興国に多いのは、どこからか話を聞きつけ、それをあたかも自分の案件かのように見せかけてアプローチしてくる「ブローカー」案件です。

 

Q:M&Aに慣れていなかったり、規模も大きくない案件が多い新興国では、ブローカーが多いといわれます。ブローカー案件の見分け方は?

杉田:こうしたブローカーの特徴としては、売り手側企業と直接のコンタクトがないため、案件情報の詳細を理解していません。こちらが詳しい情報を尋ねると、「買い手側の名前を開示してから情報を教える」と言ってきます。つまりは「日系企業の某社が興味を持っている」と、実態としては買い手の名前をネタに、次は売り手へのアプローチを図っている、ということもあります。

 

Q:これらのブローカーは、売り手側の意向を汲んで動いているわけではなく、マネジメントとも関係性が築いているわけではない、ということですね。こうしたブローカーが持ち込んだ案件には、どのように対応するのでしょうか?

杉田:基本的に、このようなブローカー案件は一切相手にする必要はありません。アドバイザー業を生業としている場合は、このようなブローカーとは、単に距離を置けば問題ないです。

ただ、現地で事業を展開している会社がブローカーと会う場合、別件でたまたま接触しただけでも、その事実を持って「某日系大手が興味を持っている」と売り手企業に吹き込むケースもあるので注意する必要があります。

 

買い手側も検討を進める上で、こうした売り手側アドバイザーが売り手企業の意向などを正確に汲んでいるような案件なのかといった点を最初に見ておく必要がありますね。

 

ブローカー案件では、案件内容が不正確なケースも

 

Q:先ほどのブローカーの案件のように、そもそも案件の内容や売り手側の意向などが曖昧で不正確なまま買い手側に話が来るようなケースがあるということですね。

杉田:新興国であるほど、案件の具体的な情報が分からない形で買い手側に話が寄せられるケースが多いのです。先ほど述べたブローカー案件は、そもそも具体的な情報を理解していないわけなのですが、そうでないアドバイザーが持ってくる案件であっても、売り手側の情報が不正確なことがあります。

ちなみに、日本や欧米企業の一定規模以上の案件では、売り手側のアドバイザーが、実施前に「セルサイド・デューディリジェンス」と呼ばれる売却対象企業に対する調査を行うことも多いです。そこで事業内容の把握とともに、買い手候補からの指摘が予測される問題点を事前に確認し、対応策を検討することになります。こうした調査を行う過程で、会社の想定される売却価値の水準を確認し、それを高めるためにどのような「ストーリー」に基づいて、売却を進めるかを検討します。

 

Q:新興国でも売り手側アドバイザーがセルサイド・デューディリジェンスをするようなケースもあるでしょうか。

杉田:新興国においては、規模が相当大きな案件でない限り、売り手側アドバイザーがしっかり事前にセルサイド・デューディリジェンスを行うことは少ないです。そして、売り手側が自分のクライアントの実情をしっかり理解していない案件も多い。ひどい場合は売り手側のアドバイザーの知識が、買い手側のアドバイザーとそれほど変わらず、売却対象会社の基本的な情報についてすら答えられないこともあります。

そして、より問題となるのは、説明を受けた内容が大きく実体と異なっている場合です。当初聞いた内容を前提として話を進めたところ、実は売り手側アドバイザーが誤った情報を伝えており、同様の事実はなかった、という例もあります。

 

新興国に多い「プロセス屋」。企業を正しく案件に誘導できていないアドバイザーも

 

Q:その他、新興国の売り手側アドバイザーについて気を付ける点はありますか?

杉田:M&Aアドバイザーと言っても、中身は本当にピンキリです。新興国でM&Aに関わる売り手側アドバイザー中には、M&Aを単なる「売却のプロセス」としか考えていないところも多く、売り手側の企業価値を戦略的に高めるアプローチを採っていません。

ここで、「売り手側の企業の案件への誘導」について、アドバイザーが売り手側の企業を正しく案件に誘導できているかがポイントになります。つまりは売り手側の意向を売り手側のアドバイザーが理解せず、要望の背景を把握できていない場合、案件はスムーズに進まなくなるのです。

 

ただM&Aをプロセスとして進めるだけであれば、アドバイザーとはいえないということですね。売り手側の「アドバイザー」が売り手側の企業の意向を適切に汲んでおらず、プロセスを進めていくだけの「プロセス屋」にすぎないケースは意外と多いかもしれません。

 

Q:ちなみに、実際に売り手側アドバイザーが「プロセス屋」だったために、案件進捗がうまくいかなかったような事例はありましたか?

杉田:例えば過去に、買い手側から、売り手側の情報について問い合わせても開示されないケースがありました。理由を確認すると、売り手側アドバイザーがこちらの意図を伝えていなかったため、売り手企業が疑心暗鬼になり、情報が伏せられていたことが分かった。直接こちらから売り手側企業に問い合わせて、情報開示の意図と、情報を開示したほうが売却時の価値が高まる可能性があることを伝え、ようやく開示に至ったことがありました。

 

Q:買い手側、売り手側の意向が正しく伝わらず、案件が進まなかったり、破談してしまう。そうしたことはM&Aでもよく起きますね。

杉田:アドバイザーの価値はただプロセスを進めるだけでは不十分です。M&Aでは、売り手側アドバイザーが売り手側企業に適切なコミュニケーションをとることで、案件をスムーズに進め、成功確度を高め、買い手側の意図も適切に伝えることができます。

M&Aにおいては、買い手側の意図が売り手側に誤って伝わったりすることで、案件プロセスが阻害されることが起きたりします。それらを適切に誘導していくこともアドバイザーの重要な役割です。

 

案件の全体像が分からない。案件のハンドリングができないアドバイザー

最後は「案件全体の状況のハンドリング」について。特にオークション案件など、売り手側が複数の買い手候補に対してプロセスを進めていき、価格や条件の最もよい候補を模索していく場合、売り手側アドバイザーは案件の全体を把握し、それぞれの買い手候補についてどのように進んでいるかを把握していることは重要になります。

 

Q:「アドバイザーが案件の全体像の把握ができていない」とは、どういった状況でしょうか?

杉田:新興国では案件の全体像を把握できないことがしばしばあります。売り手側に複数の異なるアドバイザーが同時に就き、それぞれが別の買い手を相手にしている場合があるからです。

 

つまりは売り手側企業が複数の売り手側アドバイザーやブローカーに声をかけ、買い手を探してきたところに対し、「その買い手のみを対象とした売り手側アドバイザーに就いてよい」と定めているケースなどです。こうなると売り手アドバイザーは他の買い手候補の情報を把握できません、買い手候補が全部で何社あるのか、また話がどこまで進んでいるかも分からない。こうした状況への対応法もありますが、案件の不確定性を高めているのは確かです。

 

いまだ目立つ新興国でのアドバイザーの力量不足

 

Q:これまでみてきたとおり、アドバイザーはただプロセスを回していくだけではない。アドバイザーの力量が、買い手側と売り手側が納得して案件を進めて成立させるには重要だということがわかりました。

杉田:日本をはじめとした先進国の案件でも同様のケースは起こりえます、また、新興国にもスムーズに物事をアレンジできる優秀な売り手側アドバイザーはいます。ただ残念ながら、優秀なアドバイザーは新興国に行くほど少なくなり、今回例示したような問題の発生頻度は新興国のほうがより高くなる傾向にあるようです。

 

Q:新興国では、優秀なアドバイザーは少ないということですね。

杉田:売り手側企業が売り手側アドバイザーの活用法を理解していないケースも多いです。そして、売り手側アドバイザーも未熟であると、売り手の価値向上につながる売却案件プロセスをどう取り回していいか分からない。こうした企業側やアドバイザーが、M&Aに対して不慣れであることが、結果としてM&A環境の悪化をもたらします。

 

プロフィール:杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。UBS証券会社投資銀行本部を経て、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて在日副代表を務める。著書「実践ミャンマー進出戦略立案マニュアル」(ダイヤモンド社)、「チャイナショックで荒れ狂うアジアのビジネス・リスク」(B&Tブックス)、他。現在、共同通信系メディアNNAにて、経済ニュースから見るASEANを連載中