【ニューノーマルにおける遠隔教育の現状】業界有識者4名に聞く、遠隔教育をめぐる課題と今後の展望

2020.09.14 海外市場

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が収束しないため、多くの大学では通常の対面授業の再開時期を遅らせ、遠隔でのオンライン授業を続けざるを得ない状況となっており、インターネット環境のない家庭への対応やオンライン授業に慣れていない教員の指導力の向上、十分な学生支援といった、遠隔教育に潜む課題も浮き彫りになっています。そうしたなかで、最近では対面授業とオンライン授業を組み合わせたハイブリッド型の授業設計が注目されています。今回はこうしたCOVID-19に伴う社会現象について、アメリカの大学教授と准教授、そしてVR(仮想現実)を用いたインタラクティブな英語習得サービスを提供する最先端教育テック企業のCEOにインタビューを行い、遠隔教育における課題や効果的なオンライン教育に欠かせない授業設計について見解を伺いました。

エキスパート(順不同)

■イアンナ・ボビデス氏(Dr.Yianna Vovides):アイオワ大学、学習デザイン&リサーチディレクター兼教授
■ジョシュア・M・キム氏(Dr.Joshua M Kim): ダートマス大学、オンラインプログラム・戦略ディレクター兼教授
■アリソン・ゲール氏(Dr.Allison Gale):ミネルバ大学、自然科学の准教授
■ギウセッペ・ファンテッグロッシ氏(Giuseppe Fantigrossi):Play2Speak社、CEO

TOPIC

1.オンラインコースの設計に従事する大学教授との対談

①質の高いオンライン授業の実現に必要なことは何ですか?
教育におけるテクノロジーの活用について期待していることはありますか?
③ハイブリッド型授業(オンライン+対面)はどのように実施していますか?
コロナ禍における遠隔教育の課題は何ですか?

2.完全オンライン制の超難関校「ミネルバ大学」の教授との対談

①ミネルバ大学は完全オンライン制ですが、教育課程の有効性をどのように保っていますか?
②遠隔教育における現在の課題は何ですか?
従来であれば対面で行う実験や野外研究はどのように取り入れていますか?

3.VRを利用した言語習得サービスを提供する企業のCEOとの対談

①VRを使用した画期的な英語習得サービスを提供されていますが、その具体的な内容について教えて下さい。
②教育機関でのVR導入の未来(3~5年後)についてどうお考えですか?
③今後の御社の事業展開(視野に入れているマーケットなど)について教えてください。

4.有識者への最後の質問
日本では教育の不平等を悪化させることを懸念してオンライン授業の実施が足踏み状態の学校もあります。これについてはどう思われますか?

1.オンラインコースの設計に従事する大学教授との対談


①質の高いオンライン授業の実現に必要なことは何ですか?

「効果的なオンライン授業には、授業自体の設計と教員の指導力の両方が必要です。 授業設計で重要なことは、生徒たちに取り組ませる内容と、評価システムに合致した学習目標の設定です。指導に関していえば、教師は生徒と明確にコミュニケーションを取りあって、オンラインとオフラインの両方の取り組みを可能にし、積極的に生徒と関わっていく必要があります。 オンライン授業を効果的に行うために重要なことは山ほどありますが、最も重要なことは授業設計と指導の双方における柔軟性と適応性であると考えます。」(ボビデス教授)

②教育におけるテクノロジーの活用について期待していることはありますか?

「生徒が考えを具現化して共同編集できるGoogleアプリの「Jamboard™ (ジャムボード)」や、コンセプト・マッピングアプリのテクノロジー、さらに個人的には学習者が中心となる教室を実現するテクノロジーに期待しています。対面とオンラインの異なる様式で授業を受ける生徒が混在している環境では、「テレプレゼンスロボット1) 遠隔操作技術とロボット技術を組み合わせたもので、カメラ、マイク、スピーカーとモニターが備えられ、遠方から操作を行い、あたかもその場にいるような感覚を味わうことができる。などのテクノロジーを利用することで、オンライン授業を受ける生徒が臨場感を味わうことが可能になり、遠隔授業特有の孤立感を和らげることができると思います。」(ボビデス教授)

「COVID-19の最中に、教育においてはテクノロジーに期待を寄せるのは難しいと感じています。人々はやはりキャンパスに戻れる日を楽しみにしています。 COVID-19で学んだことがあるとすれば、テクノロジーを介した学習には限界があるということです。高等教育において、教育者(教授)と学習者(生徒)が物理的空間を共有することを他で置き換えることはできません。COVID-19の公衆衛生緊急事態が緩和された時、高等教育におけるある側面がこれまで以上に強くなるでしょう。

パンデミックが学校の財政面に与える影響を懸念していますが、今回の経験から沢山のことを学ぶことができると思います。テクノロジーを介さない対面教育がいかに貴重かが分かったのもその一つです。なので、私自身がワクワクするテクノロジーというのは、対面学習をより良くするものです。しかし実際は、ハイブリット型学習におけるテクノロジーの活用が目立つでしょう。今後は、教授がデジタルプラットフォームを利用するようになり、対面での講義時間が減る代わりに、議論、メンタリング、アクティブラーニングの時間が増えていくことに期待しています。」(キム教授)

③ハイブリッド型授業はどのように実施していますか?

「私は学習デザイナーとして、多様なハイブリッド型授業の設計に関わってきました。現在はハイブリット型を用いて、大学院で『学習方法と授業設計』の講義をしています。例えば、まず生徒に記事を読んでもらい、その記事に対する批評をオンラインのディスカッションボードに投稿してもらいます。さらに、実際に授業中に話し合いたい疑問も投稿をしてもらい、それをもとに授業を進行します。

生徒には2人ずつペアになってもらい、批判的省察(Critical reflection)に取り組んでもらいます。そしてコンセプトマップ(他の学習者の投稿をもとに主要な概念を導く図)を作成してもらい、それをもとにディスカッションを促します。その後、私がコンセプトマップをチェックしてコメントを追加したものをクラス全員と共有しています。これがハイブリット型授業の一部分です。生徒が記事などの教材をもとに独自の概念的な構想を生み出すことに焦点をあて、あくまでも学習のゴールが考慮された授業設計を実現したいと思っています。」(ボビデス教授)

④コロナ禍における遠隔教育の課題は何ですか?

「遠隔学習の課題の一つは、テクノロジーやインターネットへのアクセス関連でしょう。 完全オンラインで行われる授業の場合、生徒たちは各自遠隔授業に対応するために必要なこれらのアクセス環境を整える必要があります。 パンデミックは学習の選択肢を奪いました。教師側においては、オンライン授業の実施における難易度の認識や、学習のゴールに到達するための授業設計に対する考え方にばらつきが見られます。」(ボビデス教授)

「通常、オンラインプログラムは何ヶ月もの時間をかけて設計されるものですが、2020年3月、大学は対面学習から遠隔学習に移行するためにほんの数日(場合によっては数時間)しかありませんでした。したがって、授業設計は大学側の重要な能力だと考えるべきです。」(キム教授)

2.完全オンライン制の超難関校「ミネルバ大学」の教授との対談


①ミネルバ大学は完全オンライン制ですが、教育課程の有効性をどのように保っていますか?

「本校の遠隔教育プログラムは2014年に創設されました。現在芸術と人文科学、自然科学、社会科学、ビジネス、および計算科学の学位を提供していて、約700〜800人の学生が在籍しています。教育課程の有効性を確かめるため、本校では米国の大学で採用されている「CLA+(Collegiate Learning Assessment)」(思考力や習熟度を測る評価テスト)を用いて学生の習熟度を測定します。学生には4年間にCLA+を3回受験してもらい、 その成績を利用して教育課程の有効性を確認していますが、大変良い結果が出ています。」(ゲール准教授)

②遠隔教育における現在の課題は何ですか?

ミネルバ大学に関することになりますが、大学が承認している強力なWi-Fiの電波がある住宅に住んでいない学生は、授業を円滑に受けられないというのが課題の一つです。実際にこういったテクノロジーの問題に直面している(アメリカ国外在住の)留学生もいるため、現在解決策の立案に取り組んでいるところです。(ゲール准教授)

③従来であれば対面で行う実験や野外研究はどのように取り入れていますか?

「ミネルバ大学では、実験室を使用した実験は行っていません。その代わりに、研究所でのインターシップを提供して、生徒がオンラインで学んだことをより現実的な状況で適用できる機会を設けています。」(ゲール准教授)

 

 

3.VRを利用した言語習得サービスを提供する企業CEOとの対談


①VRを使用した画期的な英語習得サービスを提供されていますが、その具体的な内容について教えて下さい。

「英語を学ぶためのインタラクティブなゲーム体験を提供しています。 学習者は仮想世界でAIのキャラクターとの会話を通じてスピーキング力を養うことができます。ゲーム中にその場でフィードバックを得られるだけでなく、スコアリングおよび進捗状況のチェックツールを使って学習を管理できます。 弊社は語学学校などの教育機関に英語教育の新しいカタチを提供しています。 弊社が提供しているサービス(「The Secret of Puffin Cove:Encounters」)は、現在基礎レベル(A2)で13テーマ(合計約1時間)の取り扱いがあります。

②教育機関でのVR導入の未来(3~5年後)についてどうお考えですか?

「まず短期的に見て、バーチャルリアリティ(VR)市場自体がより一般的になる必要があります。 教育機関でのVR導入の遅れには様々な理由がある一方で、多くの企業はすでに教育機関での複合現実の導入の可能性を模索し始めています。 3〜5年以内にVRは今のような抽象的な概念ではなくなり、ゲーム以外の形でも見られるようになるでしょうね。 VRとAIを融合させることで、VR体験が向上していくのは間違いありません。」  

③今後の御社の事業展開(視野に入れているマーケットなど)について教えてください。

「パンデミックの発生で学校や企業がオンラインとオフラインを融合させた授業を求めるようになり、弊社にとってはビジネスチャンスの到来と言えます。現在、アジア圏(チェコ共和国、中国、日本)での展開チャンスを模索中です。日本でも英語学習に注力していると思いますが、実際には東京や京都などの都市でも英語を話せない人が多いことに驚きました。 新しい英語学習を試してみたいという学校向けに無料版も提供しているので、ご関心があればお話しさせていただくことも可能です。 日本の販売代理店との提携にも関心があります。今後、私たちと一緒に新しい教育ツールを築いていきたいと思っている学校と提携したいと考えています。」

 

 

4.有識者への最後の質問


オンライン授業を受けるにはインターネット環境が必要です。家庭によってはインターネット環境が整っていない場合もあるため、日本では教育の不平等を悪化させることを懸念してオンライン授業の実施に二の足を踏んでいる学校もあります。 これについてはどう思われますか?

「設計とは問題を解決することです。 制約があるなかでは、最終目標を達成するための戦略をどのようにして導入できるでしょうか。すべての人にとって効果的である学習活動を設計するには、学習者が置かれている状況や背景を深く理解することが必要になります。 たとえば、南アフリカのある団体は、What’sappを使用して授業を実施することを決定しました。別のテクノロジーを導入しようとすると、それが学習の障壁になると気付いたためです。」(ボビデス教授)

あぁ、これは非常に現実的な問題ですね。安定したインターネット環境の欠如が教育の不平等を悪化させるという問題は避けられないと思います。 ミネルバ大学では、寮に住んでいる生徒には安定したインターネット環境を提供することができますが、アメリカに移住することが難しく、母国で授業を受けている留学生たちはインターネット環境が十分ではない場合もあるため、それが学習の障害となっています。 長期的な解決策は言うまでもありませんが、高品質で手頃な価格のインターネットをさらに普及させることです。(ゲール准教授)

「私の理解では、日本のブロードバンドアクセスは米国よりも遥かに進んでいます。ですから、日本でも同じ問題が生じていると聞いて心配です。米国は、デジタルインフラストラクチャーを開発するための国家政策を完全に制定することに失敗しました。農村部のアメリカ人の多くはブロードバンドオプションへのアクセスから除外されています。高速で信頼できるインターネット接続なくしては、オンライン授業に参加することは不可能です。COVID-19がもたらしたこの状況は、全国的ブロードバンドを確保するための政府への警鐘だと捉える必要があると感じます。」(キム教授)

エキスパートの紹介

■イアンナ・ボビデス氏(Dr.Yianna Vovides):アイオワ大学のラーニングデザイン&リサーチディレクター兼教授。過去20年間にわたって効果的なオンライン学習の設計に携わる。

■ジョシュア・M・キム氏(Dr.Joshua M Kim): ダートマス大学のオンラインプログラム・戦略ディレクター兼教授。2020年2月に著書『Learning Innovation and the Future of Higher Education(Johns Hopkins University Press)』を出版。

■アリソン・ゲール氏(Dr.Allison Gale):ハーバード大学で地球惑星科学の修士号を取得。ミネルバ大学の自然科学の准教授。

■ギウセッペ・ファンテッグロッシ氏(Giuseppe Fantigrossi):Play2Speak社 CEO。ITを活用して教育業界に技術革新を起こす教育サービス(エドテック)を提供する。

翻訳・記事制作:西條有香/Nichibei Marketing, LLC

References   [ + ]

1. 遠隔操作技術とロボット技術を組み合わせたもので、カメラ、マイク、スピーカーとモニターが備えられ、遠方から操作を行い、あたかもその場にいるような感覚を味わうことができる。